マンション経営の極意

社長は不在で、店には私とSさんの二人だった。 「最初から無理があったかもしれないわね」それがSさんの感想である。
「ええ、責任を感じてしまいます」私は溜息をついた。 「いえいえ、こんなことで責任を感じていたら、この商売はやっていけないと思いますよ」「そうですか……。
でも、コンクリートを扱う芸術家だということは、あらかじめわかっていたのですから、それなりの考慮ができたかもしれません」。 「そんな考慮は、自分でしなくちゃ」「はあ、まあそうですけど」Sさんが笑顔でこちらをじっと見つめていた。
どうも、あれ以来、Sさんの顔を長く見続けることができない。 Sさんが口にする言葉にも、今までとは違った重みを感じるのである。
その日帰宅すると、ミュージシャンのTさんが来ていた。 もう一人、髭を生やした中年の男性が一緒で、同じバンドの仲間だという。
T子さんもバンドのメンバーなので、その打合せのために来ていたらしい。 Iさんも既に仕事場から帰ってきていたので、つまり、T子さんのほかに男性が三人もいたことになる。

私はとりあえず、螺旋階段を上がって二階へ行き、そこで服を着替えた。 吹き抜けなので、手摺りへ近づかなくても、立っていれば一階がほぼ見渡せる。
玄関から入って左側の手前はコーヒーカップが占領しているが、奥にスペースが残っている。 一方、右側は、先日のパーティのときのまま、まだドラムが置かれているし、ギターアンプなどもそのままだ。
T子さんによれば、これらの機材は予備のもので、普段の活動では使っていないという。 良ければ、ここに置かせてもらいたい、とも聞いたので、もちろん私は承諾していた。
また、右手の奥には、Sさんが作ったコンクリートの巨大貨幣がぽつんと置かれている。 以前と位置が変わっているが、Tさんが転がして移動させたのだろうか。
Tさんたち二人は、ドラムがある辺りで椅子に座って話をしている。 T子さんはキッチンで食事の準備をしているらしく姿が見えない。
キッチンはここの真下だ。 Iさんは、コーヒーカップの側で、床に図面を広げて寝転がっていた。

そういったことが、見渡せる場所に私はいるわけで、これはなかなか面白い立場だな、とそのとき感じた。 いつか見た、夢のようで「あ、そうですね。
それはいいな」私は領いた。 Yさんたちは、以前にも、ここに住んでいたことがある。
「マンションは、住むには良いと気に入っていましたからね。 問題はコンクリートを練る場所なのです」「それはやっぱり、外でないと無理ですね。
ここなら、庭でミキサーを回してもらえば、問題はない」は言った。

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